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「あー、今日も平和だなー」
と、コンは机に項垂れた。 「どこがですか」 と、自前の短剣を磨きながら言葉を返すプラム。 「……オレが」 「そうですね」 相手にされなかったコンはむっとしたものの、黙って口を閉じた。 場所はモノクローム帝国の首都パステル。城下町として栄えている街の東の外れに、ギルド『ビビッド』はあった。 「勇者様ご一行が世界を救ってくれたとはいえ、まだまだモンスターたちの暴走は収まってないんですよ」 「うん」 「勇者様ご一行は旅の疲れを癒すとか言って城でのんびりしてるから、細かい仕事が全部こっちに任されちゃうんです」 「うん、知ってる」 プラムは溜め息をつくと、コンに顔を向けた。 「コンだって本当は、こんな所で休んでいられないんですからね」 「うん、そうなんだよねー」 と、コンは顔を上げると、包帯を巻いた左足を見下ろす。 「早く帰ってこないかなぁ、エルム」 今度はコンが溜め息をついた。 短剣を鞘に収めて、プラムが席を立つ。 「せめて事務仕事、やって下さいよ」 と、カウンターへ行くと、棚に溜まった依頼書や報告書を取り出す。 「無理。オレ、頭使うの苦手」 「それでもこのギルドのリーダーですか」 プラムがコンの前に紙の束をどん、と、置いた。 「ちょっと怪我して歩けないからって、甘えたこと言わないで下さい」 「……プラム、最近機嫌悪いよな」 と、心配するように言うコン。プラムはドキッとしたように身を引くと、すぐに背を向けた。 「あなたがしっかりしてないからですっ」 オリジナル 抱き枕そして奥の部屋へ行ってしまう。 コンはその姿を見送ると、紙の束に手を伸ばした。 「傷口はだいぶ塞がってきたね」 と、エルムはコンの左足を見て言う。 「痛みはまだある?」 「いや、昨日と比べたら全然ないな」 コンがにこっと笑って返答し、エルムもにっこり微笑む。 「じゃあ、明日か明後日には復帰できるかな。あ、薬塗るから、ちょっと我慢してね」 エルムは鞄から塗り薬の入った瓶を取り出し、蓋を開ける。コンは彼が薬を手に取る様子を眺めていた。 椅子の上に伸ばされたコンの左足にエルムが緑色の薬を塗る。薬草を使って作られたそれは、エルムのお手製だった。 「いつも悪いな、エルム」 魔物に噛まれた痕を丁寧になぞりながら、エルムはコンへ口だけで聞き返す。 「え、急に何?」 コンは真面目に治療士としての仕事をこなす彼を見ていた。思わず本心を口にしそうになって、躊躇う素振りでごまかし、飲み込む。 「いや、この二週間、ずっと世話になってるからさ」 薬を塗り終えたエルムが顔を上げた時には、コンはへらへらといつものように笑っていた。 「マジでありがとな、エルム」 エルムは内心で首を傾げたが、構わずに言葉を返す。 「どういたしまして」 そうして二人が仲良く談笑しているのを見て、プラムは小声で毒づいた。 「慣れない前衛に出たのが悪いんだ」 隣で報告書を書いていた召喚士のトビがちらっと顔を上げる。 「今日は二人きりだったんだろ?」 「ええ」 むすっとしているプラムに、トビは呆れた表情を浮かべて言った。 「そうやって仏頂面してるのが悪いんだぜ」 思わずプラムはトビを睨んだ。再び筆を走らせ始めたトビは、無視を決め込んでいた。 「……トビよりはマシだと思いますけどね」 隣の部屋で仲間達と酒を飲んでいる彼のことだと分かっていた。しかし、トビは顔を上げなかった。 「……暗殺、ですか」 翌朝、初めに飛び込んできた依頼内容にプラムは目を丸くした。 「それも相手は勇者の仲間であるトクサ、弓使いの美青年だ」 と、コンは書類から目を上げる。 「やるか? 報酬はかなりの額だぞ」 「……いくら裏切られたからって、それは暗殺に値しないのでは?」 「オレもそう言ったんだが、実際に来たのは代理人でな。詳しい事情は知らないそうだ」 プラムは気が乗らなかった。 「ですが、依頼は普通、最低でも二人でパーティーを組んで行うものです。今回の依頼はお受けできません」 「だが、あっちがお前を指名してきたんだ。断るのは構わないけど、お前の得意分野だろ?」 プラムの職業は暗殺士、気配を消して獲物に近づき、一発で仕留める。 「ボクが殺すのは本当に悪い人間だけです」 「……んー、そうだよなぁ。勇者は殺せないよな」 と、困った顔で依頼書類を見直すコン。 「まあ、暗殺するにしてもしないにしても、一度相手の顔を見てくるべきじゃないか?」 そう言って話をまとめると、コンは書類をプラムへ差し出した。 「……分かりました」 他の仲間達は市民の生活を脅かす魔物達と戦っているというのに――、プラムは溜め息をついた。 勇者様ご一行と聞けば、多くの人々がその顔を思い出すことが出来る。それほどに彼らは有名であり、尊敬されていた。そして世界を救った彼らには国から自由が与えられ、一部の市民は彼らに礼を言おうと金品を貢いだ。 その中に混ざることで相手を確認しようと、プラムは思い立った。 依頼をこなす際には軽い鎧を着けるが、今回はただ相手を見るだけだ。一般市民の着るような普段着で街を行き、屋台で売られていた赤いリンゴに目を付ける。 全ての準備が整ったところで、プラムは城へ向かった。 「勇者様はどちらにおられるでしょうか?」 門番に尋ねると、すんなり答えが返ってくる。 「エクリュ様とシトラス様は今日も北の図書室に、リラ様は敷地内の森に、トクサ様は三階西の自室に、アヤメ様は現在外出中でございます」 「中へ入っても?」 「どうぞ。中にいる侍女に声をかければ、すぐに案内してくれますので」 プラムは礼を言うと、門を抜けた。 勇者様へ金品を渡すのに、直接手渡しすることは許されていなかった。近くへ行って顔を見、侍女か従者を通してそれを渡すのだ。そう知っていたプラムは、さほど近くに寄ることはないだろうと考えていた。 しかし、侍女に案内されてたどり着いたのはトクサの自室だった。 「トクサ様、お客様がお見えになりました」 と、先に中へ入った侍女が頭を下げる。 「ん、ああ」 ベッドに寝ていた裸体の男がこちらへ顔を向け、プラムはドキッとした。 トクサは立ち尽くしている市民をまじまじと眺めると、にこっと笑みを浮かべて言った。 「君、こっちおいで」 「……は、はいっ」 理解が出来なかった。プラムは言われたとおり、彼の近くへ歩みを進め、そこでようやくはっとする。これほど近くで顔を見られてしまったら、依頼をこなすのに支障が出るではないか。 「名前は?」 「え……コルク、です」 とっさに偽名を名乗ったが、無意味だった。トクサは美青年と謳われるのが当然なほど、綺麗な顔立ちをしていた。すらりとした長身もあって、外見だけではどんな人も勝ち得ない。 「年齢は?」 「じゅ、十九、です」 身体を隠そうともせず、トクサがプラムの頬へ手を伸ばしてくる。 「好きな人、いる?」 そっと触れられ、妙にドキドキしてしまう。 「い、います」アニメ 抱き枕 近づいてくる顔から目を逸らすマリ。するとトクサは、ふっと手を放して笑った。 「何だ、残念。じゃあ、失恋した時にまた来てよ」 と、優しく微笑む。 「その時は、オレが慰めてあげる」 プラムは頬を赤く染め、からかわれたことに気づいた。恥ずかしさに耐えながら、リンゴの入った袋を彼へ突きだす。 「ああ、そうだったね」 からかった本人は何事もなかったようにそれを受け取り、からかわれた方は足早に部屋から出て行った。 「失礼しましたっ」 「で、部屋でずっとむくれてるのか」 話を聞いたトビは、天井を見上げた。二階の寝室で、プラムはまだ引きこもっているはずだ。 「何があったか聞いても、全く教えてくれないんだよな。困ったよ」 と、呆れたように息を吐くコン。 今夜も仲間達は酒を飲んでストレスを発散しており、エルムもまたその中で笑っている。 「明日もこんな調子だったら、どうしたら良い?」 「さあな。リーダーはコンなんだから、お前が解決しなきゃ」 「……無責任だな」 「どっちが?」 トビは意味深な笑みを返すと、仲間達の方へ向かって行く。コンはプラムのことを心配して、天井を見つめた。 PR |